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12月29日 東京 vs 柏 @静岡スタジアムエコパ-天皇杯 準決勝
わずか1年でめざましい躍進を遂げた選手達が、悠然とピッチに入場する。フェアプレーフラッグに導かれ、逞しさあふれる姿が視界に飛び込んだ瞬間、自然と涙がこみ上げて来た。
今日を今年最後のゲームにしてはならない。何としても元日の国立に繋がなければならない。
90分後には、天皇杯決勝初進出という歴史的瞬間が待っていることを誰もが信じていた。
前半を1-0のリードで終えてハーフタイム。いつもなら前半の出来・不出来を談笑する人々も、この日はどことなく静かな雰囲気を漂わせていた。一方僕は、極度の緊張に追い込まれる。振り返ってみると、今年1年これほどまでに緊張した瞬間はなかったかもしれない。「心臓が口から飛び出そうな感覚とはこういうものか」と確かめながら3本目の煙草に火を点ける。激しい喉の渇きに襲われたが、もはや何も喉を通らなかった。
ツアーバス十数台で隊列をなし、青と赤の大波となって乗り込んだ静岡の地。しかし、再びスコアを覆すことも叶わぬまま終了の笛は鳴り渡り、僕たちの2008シーズンは終わってしまった。
引き上げていく選手たちには、皆が最後の声を振り絞り「胸を張れ」と叫んでいた。そうだ、下を向く必要はない。4強に名を連ね、ギリギリまで真剣勝負を挑み続けた姿は何よりも誇らしいことなんだ。
元日へ繋げられなかったとしても、誰もが実りあるシーズンであったと確信できた1年。そこにまた新たな1年を積み上げて強くなろう。
”順風満帆”な僕たちの東京は、すぐに訪れてくれるに違いないはずだから。
その日の東京は、未明から降り続く雪に見舞われていた。
まだ半分眠ったままの感覚で、独特な外の静けさを察知する。カーテンを開くと、白く一変した世界が飛び込んで来た。ネットで天気予報をチェック。ついでにRSSに登録された新着情報も巡回する。「未読」を知らせるオフィシャルページを開くと、そこには新加入選手を発表するニュースが報じられていた。
「エメルソン選手 加入のお知らせ」
突如発表された選手名に、かつて赤いチームに所属したプレイヤーが頭をよぎった。いやいや、年末に2人のベテランを戦力外にしたからと言って、中東諸国から選手を引っこ抜いて来れるほど潤沢ではないはずだ。まして、あのチームに所属していた選手など。
そんな名前の響きだけで十分すぎる「予感」を漂わせたプレイヤーは、遠くギリシアからやって来たブラジル人だった。果たしてフィットしてくれるのか。ここ数年、短期留学で東京から去って行った選手は数知れず。しかし、巧みにボールを操る彼の姿に、いつしか僕たちの不安は希望に変わっていた。
相手を欺くように真横にボールを転がし、今季1点目を演出した開幕戦でのフリーキック。アウェー初陣の新潟で、勝利を手繰り寄せた移籍後初ゴール。活躍を待ち望んだ故障明けの磐田戦では、解き放れたように相手を翻弄し続け、僕たちにリーグ戦ヤマハ初勝利という大きなプレゼントをもたらしてくれた。
東京でプレーした1年間は、彼の中にどんな記憶として残るのだろう。残り3戦。寒空の下でカップを高く掲げた記憶を胸に、新天地へ旅立ってほしいと願うばかりだ。